※この記事は2006年5月に掲載したものです。
2006年のJLMM中高生対象のカンボジア・スタディーツアー参加者の宮下彩夏さん(参加当時高校2年生)が「JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」で「横浜奨励賞」を受賞されました。
「人間の持つ力」と「世界」
宮下 彩夏
2006年3月27日から4月2日、この一週間の出来事は私の人生に大きな影響を与えたものだった。
今年の1月、知人からカンボジアスタディーツアーを紹介された。将来、世界の様々な地域で、音楽を通し人の役に立つ仕事がしたいと思っている私にとって、それは大きなチャンスだった。私が望む仕事がどんなものか、実際に見ることもできるからだ。3月は翌月の文化祭に向け最も忙しくなる時期だが、両親や先生、友人の理解と協力により、ツアーに参加することができた。
ツアーではカンボジアの歴史や様々な問題について知ることができた。その中で一番肌で感じたのは、現地の人の心の温かさだ。上座部仏教の精神がいきづき、手を合わせて挨拶すると何処でも誰でも返してくれたり、車内から手を振ると、バイク上から返してくれたのは、何だか新鮮だった。また、現地の子との交流で、笑顔の力を知った。特別におもちゃがある訳ではない。ただ走ったり跳ねたりしているだけで、心底楽しそうにけらけらと笑うのだ。私がつたないクメール語で「サバーイ?(楽しい?) 」と聞くと、背に乗っていた子は「サバーイ (楽しい) 」と少し照れたように言い、また笑うのだ。そんな笑顔に多く触れ、いつしかこちらもけらけらと笑っていた。
しかしその笑顔の底には重い歴史がある。ポル・ポト時代に強制収容所として使われていたツールスレン強制収容所博物館は、外観や一部をそのままに、展示される写真や絵から当時を知ることができた。政治犯として虐殺された女性や赤ん坊を含む多くの写真、目を覆いたくなるような残虐な行為の絵、そしてひっそりと影を落とす独房。四年前、ニューヨークのグランドゼロの地を踏み締めた時とは別の感情があった。これらはすべて外国の圧力によって行われたのではなく、内乱としておきたことなのだ。その重い歴史、日本も同様のことを戦時中していたこと、争いがこんなにも人を変えることを知り、深い悲しみを覚えた。
カンボジアはポル・ポト政権崩壊後、復興の道を進んでいるが、抱える問題は未だ多い。経済的に豊かではないし、度重なる戦争によって埋められた地雷も多く残る。また少女の売買春も大きな問題の一つだ。観光で有名な地域も、夜に小道を横切れば、ピンクの蛍光灯が光り、私と同世代の少女が呼び込みをしている、そんな景色へ変わるのだ。少女は騙されて田舎から売られてくること、ホテル1泊以下の料金で1晩が売られることを知り、言い表しようのない憤りや、なぜという疑問の念を覚えた。
悲しい過去や抱える多くの問題があっても、カンボジアの人々はいきいきと生きている。そこに「人間の持つ力」を、彼らの笑顔から真の温かさや優しさを感じた。彼らのような人を心の豊かな人、と言うのだろう。例え、経済的に貧しくても心は豊かな国。日本はどうだろうか。経済的には非常に豊かだが、心は自信を持って豊かと言えるか。そう考えると、真の「豊かさ」とは「幸せ」とは何か、この疑問が帰国以来、私の中にある。解答は容易いものではない。しかし疑問と共にカンボジアは「人間の持つ力」と「世界」を教えてくれた。
カンボジアの諸問題は、一概にそれ固有のものではなく「世界」に通じる問題ともいえよう。日本と時差二時間の国で、これだけ違う「世界」もあるのだ。
今、私が「世界」に対してできることは非常に小さい。それでも、今回知った「世界」や「人間の持つ力」を少しでも多くの人に伝え、少しでも多くの人と考えていきたい、そんな願いを抱きながら、私も生きていこう。